大乗仏教の誕生 「さとり」と「廻向」 (講談社学術文庫) 梶山雄一
大乗仏教の話なのだけれど、自分には宗教を求める人間の観点からその歴史を文献と今の自分を撚り合わせて辿るような本だと感じた。
前半部分で、キリスト教に出てくる話とジャータカの話の類似性についての研究の歴史がある。文献学と史学的な確かさから影響をしあったことはないようだが、検証の過程で人間が宗教を求めていくことを確かめていて、それは同時に読んでいる自分の中を確かめるようでいて学術的な表記以上のものがある。
ゾロアスター教(拝火教)との関連性に言及したり、初期仏教からの経典の解説もあり、これは浄土教以外の仏教諸宗派、修験道の方が読まれたらどんな印象なのだろうと思った。視点がたくさんあって面白い。
後半で「空」について、
戦乱と略奪に明け暮れ、無常と苦をいやでも痛感させられている民衆にとって、空の思想は、奥深いものでありながら、実はもっとも身近な、受け入れやすい思想であった。
とある。ああ、これはそうかもしれないと思う。現代社会で生命の危機をある程度感じないで生きている今、この「無常」というのは生き死にのレベルで感じにくいのは確かた。ほんとうはそうじゃないんだけど、常に自分の隣に死があるという生活ではない。
空と輪廻のところは抜粋しようがないので、是非読んでもらいたい。ここにダイジェストを書くことがまた台無しにしてしまうことなのだ。
最後の[付論]仏教の終末論は、こんな感じの世界観があるのだというのを浄土教から読んでいる自分は初めて知った。こういう思想の土台があって輪廻というのを考えるとまた違った感覚で見ていくことができる。
どういう人におすすめかと言われてると、どういう人でもOK!全然仏教を知らない人でも面白く読める文化的知識的幅広さ。そして仏教関係の方でもそれぞれの視点から新しい気付きが得られるのではないかという感じがする本だ。真言宗の人とか読まれたらどんな感想かなとも思う。
学術的かと思わせて、自分の中で読んでいくことの広がりに驚く一冊。