『悼む人』天童荒太 文春文庫
第140回直木賞受賞作品(2008年下期)
主人公坂築静人が新聞やニュースで亡くなった人を捜し、その命を落とした現場で「悼む」。これが最初違和感たっぷりだし、それを許している家族も謎でしかなかったのだけれど、静人の経歴が明らかになり、静人を囲む人々のそれぞれの「命の事情」がからみあってだんだん自分もそれを受け入れられるようになっていた不思議。
人の死って、知っている人間だけしか悼むことができないのだろうか。知りもしない人のことを悼んだら失礼なんだろうか。そんなことを考えさせられた。
悼むって、亡くなった本人に対する追善供養みたいなことを思っていたけど、よくよく考えたら、その周りの人たちのための者でもあるのだなというのが後半部分で明らかになった気がする。
他人の死に自分はどれだけ向き合えるだろうか。自分の人生をかけて、消え行く命をどこまでも悼むことができるだろうか。とんでもないことをしている話だよ。
◆直木賞 現代もの おすすめ

