如是我我聞

仏教書、哲学書、お聴聞の記録をつけています。

『彼らの犯罪』 悪い「顔」がいない

『彼らの犯罪』岩波現代文庫 樹村みのり

 

 以前、響流書房でこの方の話を読んだ。

 

luhana-enigma.hatenablog.com

 これもこの本に収録されている。

 この方の漫画は淡々としているように見える。どうしてかというと、本当に悪い「顔」の人が描かれないからだ。漫画ってキャラクターの立ち位置をはっきりさせるために、「あ、これ悪い奴だな」とわかる「顔」で書かれることが多いが、このお話に出てくる登場人物(多くは犯人的な存在なのだが)はみんないろいろな「顔」を持っている。そのときそのときの表情だ。だから常に悪い人もいい人もいないのだ。だから判断は読者に委ねられる。あなたはどう考えるか、と。

 表題作は女子高生コンクリート詰め殺人事件をテーマにしたものなのだが、表面で読んでいくと、「なんでもっと加害者を攻めないんだ!」といわれそうな感じがする。そこは取材する女性を通して静かに被害者へ、女性への深い視線があるのだ。漫画だからってさらっと読んじゃいけない。まだ小さいときにこの事件をワイドショーで見て、なんと高校生になるということが怖いんだと感じたのを思い出す。

 自分は「親が・殺す」も重かった。東大卒の真面目な高校教員が妻と共に息子を殺した事件。いろんなところでこのシチュエーションが自分と重なることがあり、自分の読み方は全部保留だった。最後の父親の言葉がすべてかもしれない。

 後半には女性の生き方(「イエ」から解放されたおばあちゃん、LGBT、ミスコンなど)に関するものがある。自分より前の世代の方の考えだと思うが、それでもここまで落とし込んで伝えられるというのはすごいなと思う。是非読んでみて欲しい。でもどれだけ上の年代の人たちに気付きを与えられるか・・・とも思う。それぞれの人間が人生で気づき上げてきた価値判断というのはそう簡単に覆らない。