『才女の運命』インゲ・シュテファン (著), 松永美穂 (翻訳) フィルムアート社
偉人の陰にはそれを支えた「女性」がいる。その存在をミューズというみたいなのは見かけたことがある。この本はその素晴らしい存在に見えるミューズの事実を淡々と突きつけてくる。淡々とというのは、そこにエモーショナルに訴えてくる要素を抑えているからだ。率直な感想として、事実を読んでいるだけで己の心のざわつきはざわつきどころか嵐と呼べるくらいの衝撃である。
トルストイ、シューマン、ロダン、アインシュタイン、リルケ、フィッツジェラルド…いずれも歴史上の人物として耳にしたことのある偉人と呼ばれる人たちだ。なんなら世界の歴史人物篇で子供が手にする伝記物の書籍になっている人たちだろう。
とんでもねえええええええ
ドン引きを通り越して言葉を失う。パートナーに対する言動がすさまじい。ていうかこれは「偉人」と呼ばれるある種特殊な人たちだからこうなのか。それとも時代的にこういう女性を蔑ろにするのが当たり前だったととらえるべきなのか。
とにかくひどい。
女性の能力を消費している。己の成功の為に。
最初のトルストイから身悶えしながら読んだのだが、誰が一番最悪なのかと考えたら、最後に読んだフィッツジェラルドかもしれない。自分はかねがね『グレート・ギャッツビー』のよさが分からなかったのだが、ひょっとしたらフィッツジェラルドの性格的なものと相いれないからかなとか想像してしまった。
とにかくね、過酷かつ不条理な状態にあっても女性たちはなんとか自分で生きていくためにもがいている。すさまじいのだ。そしてそれはほぼハッピーエンドではない。そう、男性の側が「偉人」という称号を得ているのに対して、その存在を消されるに等しい扱いなのがこのミューズたちなのだ。
これってそんな昔の話じゃない。ああ、本当に女性差別というのは根深い。
現代人はこれを一度読んでみたらいいと思う。昔の話じゃない。ここにある「凄惨」なことが絶対自分の生活のどこかにまだ潜んでいると感じるはずだ。それがなくなるまで、われわれはそれをつぶしていかなければならない。
